ワクチン接種:大事なのは「モノ」と「ヒト」の追跡

ワクチン接種の日本のプロセスは「下山する体力と装備を持たずに、雪山登頂を目指している」のと同じで、発生するトラブルが予見されてるのに泰然として受け入れるしかない、そんな状態だと思っています。何が起きていて、何が起ころうとしているのか、私なりにまとめてみました。

ワクチン接種で自治体が直面する問題をどう改善するか。大切なのはモノとヒトの追跡だという提案です。

主旨

制度の複雑化:3つのシステムが重なっていて、かつまだ全体をカバーし切れてない
デジタル化の遅れ:各所で紙ベースと手入力作業がいまだに発生している
トレーサビリティがない:引越し、副作用の発生、予約後の接種忘れ、2度目の接種漏れ、他疾病との関連性、など人を追跡するトレーサビリティの概念がない

ワクチン接種と定額給付金事業の類似性

新型コロナワクチン接種にむけた準備が進んでいます。
ワクチンの確保は国で、実際の接種業務を担当するのは自治体、市区町村です。
いま全国で「ワクチンを一刻も早く国民に!」との声に応えるため手一杯ですが、現状の作業フローでは、昨年の定額給付金の際に自治体の現場で起こった混乱の二の舞になりそうなのです。

昨年:自治体デジタル化の遅れが起こした業務過多

昨年の定額給付金申請の際、マイナンバーカードが普及していない、そもそもマイナンバー(番号)と個人の口座が紐付けされていない。などがあり、現実はオンラインでもすべての申請書類を『区職員が手作業』で入力していました。
「他自治体より遅い」「まだ届かない」などの苦情の中、通常業務後に集まり数十人体制による徹夜の入力業務が数ヶ月間。もう力技です。担当の皆さんには本当に頭の下がる思いです。

デジタル化への期待と現実:為されないままの1年

手書き、郵送、手入力

台帳がデジタル化されていれば。システムが構築されていれば。行政業務へのデジタル化導入の必要性を痛感したのに、喉元過ぎれば熱さ忘れる。その後の自治体DXは、実際は国も区も、計画作業を進めるのんびりしていたものになっていました。これが『OECDのワクチン接種最後進国』と言われてしまう現状の遠因になったのではないか、と思います。
行政は『デジタル化』ありきじゃない、けれど数年後に東京23区でも自治体運営が厳しくなる状況下では、何かをドラスティックに変えないと無理。という思いを強く持っています。

コロナワクチン接種のフロー図

現在の新型コロナウイルスワクチンの接種体制・流通体制の構築は以下のようになっています。
V-SYS (ブイシス)という厚生労働省の流通管理システムを中心に動いています。

https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000703859.pdf

モノの管理と、ヒトの管理

V-SYS、これはワクチンという『モノ』を管理するシステムです。
そしてV-SYSは、接種業務の管理、そして副作用などが発生していないかの『ヒト』の管理をできない仕様です。厚生労働省は法律上の関係から、実際の接種業務(案内の郵送や、対象者の管理など)のシステムをV-SYSに組み込まず、自治体が独自に発注するよう指示をしました。

実際の接種業務、重要なのは『ワクチンの存在』でなく『誰にいつワクチンを打つのか』なのに、この当たり前に一番大切なことを管理するのは「全国約2000の自治体で独自にね(お金は出すからさ)」となったのです。
(双方に言い分はあるし「自治体ごとの特性に合わせた自由度」は大切だけど共通ルールがないから異種格闘技戦に)

これで、2つめのシステムが誕生です。

2つめ、『ヒト』を管理する自治体独自の接種業務・案内発送システム

板橋区でも12月年末に駆け込みで契約発注が行われました。金額は約数億円。しかしこの時も、また今でさえも「この数億円で、いつ誰に何をどうするのか」を決められません。遅れちゃいけないんで急いで契約だけはこぎつけましたが、ワクチンも来ない、内容についても指示も国から情報が届かない、というのが2ヶ月続いていますので何もできず、ただ待つのみです。
昨日3月1日からコールセンターが稼働した地域が多いですが、質問されても答えようがない状況なのでは、と推測します。

号令は理想的DX、現場はアナログ。起こったことは「全員総論賛成・業務停滞2週間」

区にはインフルエンザなどのための予防接種台帳というのがありまして、新型コロナに向けてこれを使え、という指示が来ていました。
しかし「いやいやこの台帳ってデータ化どころかシステム構築をしてる自治体さえ全国でほとんどまだないですよ、このシステム自体をまた勝手に自分たちで構築しちゃったら、自治体ごとに違いが出て住民情報の引き継ぎ引き渡しが出来ないし、引っ越しされた人にはダメダメじゃん」という状況でした。

(関係者各位:ずっと厚労省と政府の否定をしている文体になっていますが、自治体視点ですのでご容赦ください。)

厚労省の指示・発注が自治体を困惑させ、政府方針で混乱に拍車をかけ、全体像の理解を難しくした

3つめのシステムが登場、政府システム

そこで颯爽と乗り出したのが、自治体DX、デジタルガバメントを掲げての政府案。河野大臣を据え、このV-SYSと自治体システムを結びつける『新・政府システム』の構築を指示します。3つめの登場です。

(詳しくは以下の産経新聞記事をご覧ください。)
ワクチン接種で併存する3システム 混乱懸念、背後に官邸VS厚労省
(2021.2.3 産経新聞)

政府として大変迅速に構築の指示が出て期待大でありますが、そこで以下、気になっている点をまとめました。

  • システムが3つ稼働で複雑化:どれかにトラブルが出たら対応できるのか?→そもそもデジタル化の遅れが問題なのに更なるギャップが。
  • デジタル化の遅れ:当初からの課題だった「接種台帳、町医者とのやりとり」の大部分がまだ紙ベースとして残っている→費用と時間と労働力が効率化されず定額給付と同じ問題発生が予見(実作業は外部委託だとしても)台帳データ化、間に合うのか。
  • トレーサビリティがない:予見されるトラブルとして、引越しされると追えない、副作用が発生しても追えない、予約したのに接種忘れ、他疾病との関連などがある。すべて、「ワクチンを打つ/打った人」を補足できていない故。

そして、私の考えと提案を記します

いち自治体、いち議会として出来ることや得られる情報は限られていますが、以下そんなに間違ってはいないと思うのです。

1、パーソナルヘルスレコード(PHR)の利用作りを急ぐ(国?医師会?)
2、データ入力と取り扱いのルール設定を早急に(官デ法?デジ庁?)
3、そのルールに沿って台帳のデータ化作業を急ぐ(自治体マター?)
4、cocoaの失敗をおそれない。(cocoaがダメだっただけでアプリ活用は正しい?)
5、第四の補完機能システムを国の巻き取りで導入するのか、しないのか

正直に申しまして、私のような一区議会議員がどうこういって物事が進むとは思えませんが、蜜蜂のひとしずく、書き記すことが大事と踏まえ候。